星めぐりの道具箱

望遠鏡作り、双眼鏡、惑星撮影など

ERNST LEITZ 8x30 双眼鏡の分解

2月から家の改修工事のため仮設の足場に囲まれて落ち着かない生活です。双眼工房のページに古い双眼鏡の記事を書いてきましたがブログに続けていきたいと思います。この双眼鏡は戦前のもので8x30の広視界タイプ、右眼にはレチクルが入っています。素直でシャープな像ですが、光学系にカビと曇りがあるので分解・清掃をすることにしました。機種名の表記がなくレチクル入りなので軍用タイプと思われますが、当時の日本語カタログ(1935年9月)を参照するとBinuxit(ビヌキシート)という機種と形状が同じです。価格は185円とあり当時の大卒初任給は70円程度だったようなので現在の価格に換算するとかなり高価なものです。視界は1000mにて150mとあり約8.6度に相当します。見かけ視界70度近い広視界双眼鏡です。

 

古い双眼鏡の光学系の清掃は分解に一番手間がかかります。分解はマニュアルもなくパズルのようなもので面白い、急がないことと根気が必要です。現在は気密構造には、Oリングを使用する場合が多いですが、戦前のものでは油土やアスファルトのようなものが充填されている場合が多く、これが固着していると簡単には分解できません。

この双眼鏡も対物レンズ側の飾り環の内側に油土が詰まっており、対物側、接眼側のカバーの裏側にも充填されていました。特に対物側の飾り環のねじは硬く固着していて、粘っこく特殊なレンチを準備して(ライカ関連のショップで適当なサイズのものを入手できました)、浸透性のオイルとヒートガン(熱くしすぎるとレンズを貼り合わせているバルサムが溶ける場合があります)を慎重に使用してやっと回すことができました。

 

中心軸の接眼側の部品は眼幅目盛板を外し、さらに対物側から中心軸の抜け止めのビスを外して容易に分解できました。

 

ボディーを固定してレンチで対物側飾り環を取り外します。内側にべったりと油土が詰まっていました。

 

対物レンズを厚紙で保護しています。プリズムにはカビがあります。

 

カバーが外れたボディー、ここまで分解できると作業も先が見えてきます。

 

左右の鏡筒に分けて部品を整理しました。小さなセットビスが多く無くさないように気を付けています。部品は黄銅製が多く赤っぽい下処理がされています。

 

1934年11月のカタログにあるBinuxitの仕様、ネットで調べたらこの双眼鏡は1927年~1962年まで生産されたそうです。

 

同じカタログにある断面図、この図を見ると接眼レンズの構成は対物レンズ側から2-2-2の3群6枚構成です。当時の競合機種で有名なZeissのDeltrintem 8x30はH.Erfleの設計した広視界接眼レンズを使用した双眼鏡で1920年に生産開始され、2-1-2、3群5枚構成です。